さして感慨もなさそうに呟いて、男は何年振りかで塀の外に出た。出迎える者は誰もいない。汚いカバンを一つ肩に担ぎ、男は足を踏み出した。相変わらずこの街には風が吹いている。1枚の新聞紙が風に飛ばされ足に絡みついた。うるさそうにそれを拾い上げ、くしゃりと丸めて投げ捨てようとして、男は動きを止めた。目の端をかすめた小さな記事…そこに何と書いてあった?
鳴海探偵事務所の簡易ベッドに横たわり、フィリップはシュラウドの言葉の意味を考えていた。なぜシュラウドはあんな事を…?翔太郎は不吉な存在?あまりにも深くその疑問に囚われ過ぎていて、翔太郎が自分に呼び掛けた声にも気づかなかった。唐突に目の前に当の翔太郎の顔が現れ、フィリップは過剰に驚き、そして怖ろしいものでも見る様な目付きで相棒の顔を見つめた。
と、事務所の戸を叩く者がいる。その客は返事も待たずに扉を開け、中に入って来た。凄味のある鋭い目つきのその男は、どこからどう見ても堅気には見えない。亜樹子が小さく悲鳴を上げ、慌てて翔太郎の影に隠れた。翔太郎は一瞬目を逸らして生唾を飲み、それでも威勢よく「地上げ屋ならとっとと帰んな!!」と詰めよった。次の瞬間、男の右手が閃き、額に強烈なデコピンをかまされた翔太郎は、無様に床にひっくり返って悶絶した。
尾藤はひどく衝撃を受けた様子で、茫然と傍らの椅子に座りこんでしまった。亜樹子は気丈に笑顔を作り、今は娘の私と弟子の翔太郎くんが探偵をやっているのだと、この強面の客に告げた。
おやっさんがやり残した仕事…。翔太郎はますます表情を曇らせ言葉を失った。おやっさんが生きていたら、この男の為に何か真実を探り出し、この男は今頃、重大な何かを得ていたのだろう。
むしろ娘の亜樹子の方が父の死をすっぱりと割り切っているようだ。彼女はすぐに過去のファイルを調べ始めた。しかし、尾藤に関して父が何を調べていたのか、その痕跡すら見当たらない。
振り向きもせずに出て行った尾藤を、翔太郎が慌てて追いかけて行った。やれやれ、先が思いやられる…といった表情で2人の出て行った扉を見つめる亜樹子と照井。フィリップはそれとは違う視線を戸口に向けた。
今週の副題…大藪春彦ですか。伊達邦彦とはだいぶキャラが違いますがw。松田優作さん繋がりなのかとも一瞬思ったんですけどね。一時期、大藪春彦作品にハマって(高校の頃)、伊達邦彦のシリーズはあらかた読んだかもしれない。自己陶酔型の作家さんだったので、伊達邦彦がどれ程シナヤカな肉体を持っているかとか、どれ程すご腕かとか、女の扱いはどうだとか、そういう描写がくどいほど書き綴られておりました。けど、ご本人も好きなんでしょうね、銃やバイク、車などのウンチクが物凄く濃かった。それに惹かれて読んでたってのもありますが。ハードボイルドなんてのは、書き手が自己陶酔している方が、面白いしカッコいいのかもしれない。余談ですけど(^^;)
そして役名尾藤イサム。「誰のせいでもありゃしない~ みんなおいらが悪いのさ~」の尾藤イサオさんを思い浮かべた人は、おいらだけじゃないはず。
尾藤勇(41)どこかおやっさん の時代の匂いのするこの人を見ていると、
胸の何かが騒ぐ。俺の人生の…大きな何かが変わる予感が…。
いつもの翔太郎のモノローグは、陶酔しすぎていつの間にか声が出ていたらしい。尾藤から「うるせーよ」とデコピンされて、翔太郎はシオシオと大人しくなった。
尾藤は神社の境内にいくつか並んでいる屋台の一つを覗き込み、『有馬丸男』という男の消息を尋ねた。
「おい兄ちゃん、ちょっといいかい?
俺ぁ以前この辺りの出店仕切ってた尾藤っつうもんだけど、
子分のマル…あ、いや、有馬丸男に会いてぇんだけど。」
途端に出店の若い男の目が泳いだ。「え?…あ…いや…知らないっすねぇ…。」と横を向いて目を合わそうとしない。答えたくない、いや答えられない何かがあるのか…。
その時、隣のアメリカンドッグの屋台から、偶々話を聞いていたウォッチャマンが声を掛けてきた。
「有馬って人なら、この辺り一帯を牛耳る土建業者の社長だよ。」
『有馬丸男』の消息は、意外な所から知れた。
かつての子分が社長…?尾藤は驚きを隠せない。
え~と、私の記憶が確かならば、この神社は赤や青や金や紫の人たちが、オオカミやペンギンやゾウやドラゴンになってラムネを飲んでいた…。最近だと、なんか本物の当主のお姫様が…。
鳴海探偵事務所では、ただ一人「鳴海壮吉」を知らない竜の為に、急遽「よくわかる鳴海壮吉入門講座」が開かれていたようですね。
「鳴海壮吉…かつて組織と戦った男か…。」
「ボクも命を救われ、生き方を教わった…。」
フィリップはとりあえず考察する事を止めたらしい。鳴海壮吉は聞けば聞くほどすごい男だったらしい。竜は「会ってみたかった」と少し残念そうにつぶやいた。
そんな鳴海壮吉が、あの男に一体何を残そうとしたのか。フィリップの様子が少しおかしい…と亜樹子は察していたのだろう、「検索…できる?」と遠慮がちに切り出した。
「やってみよう。」
フィリップはようやく微笑んで立ち上がった。
尾藤と翔太郎は、土建業者の社長になったという有馬丸男の家を訪ねた。中から現れたしっとりとした居住まいの和服の美女は、尾藤を見るなり懐かしそうにパッと顔を輝かせた。
「サム!」
「ベル…久しぶりだ。」
「サ…サムにベル?…なんだそりゃ?!」
多分見ていた多くの方が翔太郎と同じ突っ込みをしたんじゃないかと。私も聞き間違いかとw。
尾藤はお約束の様に翔太郎にデコピンすると、「昔の徒名だ」と言った。
イ
サムだからサム。
鈴子だからベル。そして尾藤の弟分の丸男…マル。…って、マルだけそのまんまなんだ(笑)
マル…有馬丸男役の方、やっぱりカブトで田所さんの弟さん役を演った方ですね。
蕎麦屋辞めて土建屋の社長ですか(←違う)この強面で「ぅおにぃちゃ~ん!」言うてましたから、インパクト大です。田所さんも強面だったし、ある意味、キック&パンチの地獄兄弟よりも怖くて強そうでした。
そう言えば、田所さんはネイティブだったけど、弟さんも?ネイティブ兄弟?
ニコニコと嬉しそうに尾藤を招き入れるベル。翔太郎も続いて中に入る。
「マルは…亭主は元気か?」
尾藤の言葉に、表情を強張らせる鈴子。家の奥からどすの利いた声が聞こえてきた。
「元気だよ!…尾藤さん。ご出所…おめでとうございます。」
有馬丸男は慇懃に言って頭を下げた。姿こそ昔の面影を残してはいるが、かつての弟分はすっかり人間が変わっていた。いつまでも昔の徒名で呼び合う事を小馬鹿にしたように鼻で笑い、「せっかく来てくださっているのに」とたしなめる鈴子を黙っていろと突き飛ばす。挙句の果てに、迷惑そうに尾藤を追いだしにかかった。
「あんたみたいな人に来られると、変な噂になりますから。」
尾藤は巨漢の丸男の前にズイっと詰め寄って、凄味を効かせて睨みつけた。
「俺も変な噂を耳にしたぞ。…野獣のな。
いいか…今でもベルを泣かせているようなら、俺にも考えがあるぞ。」
途端に丸男は巨体を揺すって笑い出した。バカにしたように指をさし嘲笑った。
「またあの探偵の旦那に泣きつくんですか?
死んだって…聞いてますけど。
それとも何か…形見でもあるんですかね?」
「ああ、あるとも!…アレだろ?」
壁際で黙って聞いていた翔太郎が、おやっさんの事を引き合いに出されて目が据わった。丸男は、今初めて存在に気づいたようにジロリと翔太郎を睨みつけ、「誰だお前」と凄んだ。
「鳴海壮吉の一番弟子だ。アレの事ならちゃんと聞いてるぜ。」
翔太郎はとっさに口から出まかせのカマをかけ、尾藤の肩を叩くと連れだって丸男宅を後にした。本当に鳴海壮吉が弟子に何かを託したのか…心穏やかでないといったようすで2人背中を見送る丸男。
一方、事務所では、鳴海壮吉のやり残した仕事の手掛かりを探るために、フィリップが
地球の本棚で検索を開始していた。
最後のキーワード【尾藤勇】を入力した所で、本は1冊に絞られた。
10年前、風都ダム付近で現金輸送車襲撃事件が起こった。事件直後、尾藤勇が自首をし懲役10年の実刑判決を受け、事件はそれで解決したはずだ。鳴海壮吉はなぜ解決した事件を追跡調査したのか…。
「どうも不透明な部分が多い事件なんだ。」
竜の疑問にフィリップが答えた。
輸送車と現金30億円はダム湖に沈み、未だに見つかっていないという。しかも、襲撃現場には
人間離れした破壊の跡があったのだ。
もしかしたら、その事件も野獣人間の仕業なのか…?!
丸男の家を出た後、尾藤と翔太郎は波止場にいた。
「話は見えたぜ、尾藤さん。
おやっさんが調べてたのは、あいつが何か悪さしたって言う証拠だろ?」
むっつりと黙りこんで先を行く尾藤に足早に追い越し、翔太郎はわかった風な口調で言った。尾藤は足を止め、「坊主、おまえそのありかを知ってんのか?」と聞いた。
「いいや。出まかせさ。あいつにカマかけたんだ。
そのうち何か動きを見せる…。」
得意顔でニヤリと笑う翔太郎の額に、尾藤の右手が閃めく。
「阿呆!!」
突然怒鳴りつけられ、凄味のある目で睨みつけられて翔太郎は竦んだ。どうなっても知らんぞ!と低く言う尾藤の真剣な目。彼は丸男の正体を知っているからこそ、若造の浅はかな策略に腹を立てているようだった。
マルはな…あの男は…その正体を告げようとした時、背後から獰猛な唸り声が迫り、次の瞬間、翔太郎に猛獣の様な鋭い爪とキバを持つドーパントが襲いかかって来た。獣のドーパントは翔太郎の首を締め上げると
「
クマはどこだ!
クマをよこせって言ってんだよ!」
と吼えた。背中がもふもふ♡意外に後ろ姿がキュートなドーパントね。熊、熊って、君自身がキンタロスより熊っぽいじゃないかと。
一体何を要求しているのかわけがわからない。ともかく、目の前にドーパントが現れたのなら、
Wに変身して倒すだけだ。
翔太郎はダブルドライバーを手にすると、フィリップを呼んだ。
いつものようにガレージのフィリップからサイクロンメモリが転送されてくる。しかしなぜかバチバチとショートしたようにプラズマが走る。何か不具合があるのだろうか。しかし今は目の前にドーパントがいる。
「迷っている場合じゃねぇか。」
翔太郎はジョーカーメモリをドライバーに差し込んだ。尾藤は息を飲んだ。半人前の若造だと思っていた探偵が、妙な怪人に変身した!尾藤は仮面ライダーの事を知っていたのかな。
Wの事は知らなくても、鳴海壮吉が仮面ライダースカルに変身して戦っていた事を知っていたんだろうか…?ねぇ。
Wはいつものように戦い始めた。ビースト・ドーパントは確かに獰猛で頑丈でパワーも桁違いだが、それにしてもどうも様子がおかしくなっていく。
「強敵だ!行くよ!翔太郎!!」
フィリップが気合を入れたとたん、右のソウルサイドが緑色に輝いた。身体の中心ラインに走るプラズマ。この瞬間から、翔太郎とフィリップの力のバランスがガタガタと崩れ始めた。右手でパンチを繰り出すと、振り抜いた勢いが止まらずに、自分の身体が振り回される。右足で回し蹴りをしようとすると、やはりパワーが強すぎて、左の軸足の踏ん張りが利かずに転倒してしまう。
「ジョーカーの力が弱いんだ!別のメモリに!」
フィリップに言われるままに、翔太郎はパワーの強いメタルのメモリに替えた。しかし、左右の力のバランスが悪く、身体が思う様に動かない。フィリップはようやく、自分の力が強くなり過ぎているのだという事に気づいた。殴り倒されても、すぐに立ち上がる事も出来ない。地面の上でもがく
Wにビーストの鋭い爪が振り下ろされた。火花を散らしてそれを受け止め、立ちはだかったのはアクセル!
「だらしないぞ!左!!」
アクセルはすぐさまエンジンメモリをブレードにセットし、ビーストに向かってマキシマムドライブを発動した。赤い閃光はビーストの分厚い胸に鮮やかな
Aを刻んだ。仕留めた。そう思った瞬間に、みるみるビーストの傷がふさがっていく。こいつ不死身か。
邪魔する奴は生かしちゃおけねぇ!2人の仮面ライダーに牙を剥いて襲いかかろうとするビーストを、尾藤の鋭い声が止めた。
「止めろ!!そいつは何にも知らねぇよ。はったりだ。」
ビーストはゆっくりと振り向きざまに左腕からガイアメモリを抜き、有馬丸男に戻った。この男が野獣人間だったのか…!竜と翔太郎は驚き息を飲んだが、尾藤は最初から正体を知っていた様子だ。ギンっと丸男を睨みつけると声を凄ませて一喝した。
「マル…やっぱおめぇか。お前…
まだ野獣人間に!!」
「尾藤さん!!時代は変わってるんですよ。この街で俺に逆らえば…」
丸男は指で撃ち抜くような仕草で尾藤と、そして2人の仮面ライダーを威嚇すると、再びビーストに変身してどこかに去って行った。
変身を解いたというのに、フィリップの精神は身体に戻らず
地球の本棚の中にいた。一つの本棚もない、上も下もない真っ白な世界…。唐突に背後からオーロラの様な光と共に風が吹き込んできた。
白い闇の中から、何かがゆっくりと近づいてくる。
あれは
W?…いや、でもあの姿は…なんだ?
ほんの一瞬でしたけど、足の運び方ですぐに高岩さんとわかりますよね(笑)あああ、高岩さんの歩き方だ~…みたいな。宇宙船に特写写真が載ってましたけど、物凄く動き辛そう…というか実際動けないスーツみたいですね。しかもマスクの内径が狭くなっているから息苦しそうですしね。このスーツでアクション出来るんでしょうかねぇ…。いや、演るでしょうけど。酸欠には気を付けてください、高岩さん。
本格的な登場&活躍は来週かな?さ来週かな?
いきなり突風が吹いて、フィリップはガレージのソファの上で目が覚めた。亜樹子が心配そうに覗き込んでいた。亜樹子が言うには、フィリップはひどくうなされていたらしい。フラフラと立ち上がり、作業台に突っ伏したフィリップの右手にバチバチとプラズマが走る。この身体は一体どうなってしまったのか。
「エクストリームに…出会ったせい…か?」
フィリップの身体は1度、データ化されてエクストリームメモリに取り込まれ、その後また生身の姿へと再構成されたから、その時に何らかの変化が起こったんでしょうか…?
竜と真倉は、巷を騒がす野獣人間の件で有馬丸男宅を訪れていた。あいにく本人は不在だったが、対応に出た鈴子は、丸男がガイアメモリを使っていたという事を知らされて動揺していた。主人に限ってそんなはずは…と、力なくソファに座り、沈痛な面持ちで俯いている。しかし、竜は確かに目の前で丸男がビーストに変身する所を見たのだ。竜は静かにその事実を告げた。
真倉はまるで自分が鬼の首を取ったように偉そうに、本当にガイアメモリの事を知らないのかと、高圧的に鈴子を責めた。そのとたん、大股に部屋に入って来た尾藤のデコピンが、真倉の額に炸裂した。
絶叫を上げてひっくり返った真倉を一瞥し、尾藤は鈴子に声をかけた。
「サム!」
鈴子は嬉しそうに立ち上がって駆け寄ると、尾藤の胸に顔を埋めてすすり泣いた。
丸男が性懲りもなくまだ野獣人間に変身して悪さをしている事を確信し、尾藤は矢も盾もたまらずに鈴子の元に駆けつけてきたのだ。自分がいたところで、相手は凶暴な野獣人間。何も役には立たないかもしれないが。そう言う尾藤の言葉を遮って、鈴子は「ありがとう…」と嬉しそうに微笑んだ。
これ…本当に子供番組ですよね?任侠物のVシネじゃないですよね?ね?
10年前の現金輸送車襲撃事件の犯人は、ガイアメモリを使ってビースト・ドーパントに変身した有馬丸男だった。その証拠のヒントが…『熊』という事か。
『熊』…一体何のことなのか。
「熊?熊って…こんな、鮭を咥えたやつ?」
亜樹子が鮭の代わりにスリッパをくわえておどけてみせた。
木彫りの熊のイメージですね。私の実家にもありました。確か旦那の実家にも。なんか大概の家にありそうなイメージです、木彫りの熊。あれは何なんでしょうね。北海道かどこかのお土産?なぜこんなに普及してるのか考えてみれば謎です。キーワード【木彫りの熊】で検索してみたら、136,000件ヒットしたんですがw。wikiにもあるし(笑) 侮りがたし、木彫りの熊。
亜樹子のイメージ『木彫りの熊』が、翔太郎の記憶を呼び起こした。どこかで見た事がある…しかもおやっさんがらみで!! 懸命に記憶の糸を手繰り寄せていた翔太郎が、突然、素っ頓狂な声で叫んだ。
ソレを見た場所を思い出した、あそこだ!
「行こう!!明日の朝イチで…!」
ようやくつかんだ手掛かりに喜ぶ翔太郎と亜樹子。しかし。
「待ちたまえ!翔太郎!今の
Wには問題がある…。
行動を起こすなら………注意が必要だ…。」
それまで話には参加せずに、2人に背を向けてしきり考え込んでいたフィリップが翔太郎を止めた。彼はおそらく2人の力のバランスが崩れ、
Wとして思う様に戦えなくなった事について、原因と対策をずっと考え続けていたのかもしれない。フィリップの表情をみると、その答えはまだ出ていないようだ。
シュラウドの言葉も、
地球の本棚で見た謎のフォームについても、まだ翔太郎には言えない。止めはしたものの、フィリップの声は低く、言葉は徐々に消極的になって、結局彼はまた2人に背を向けた。
「ああ、確かにさっきバランス悪かったよな。
でもパワーが妙に強すぎたのはサイクロンの方だ。
お前が合わせりゃ…済む話だろ?」
翔太郎はポンとフィリップの肩を叩いて、呑気に言った。いつもなら、翔太郎の楽天的な言葉にのっかって、なんとかなるかと思えるのだろうが、今回ばかりは不安な要素が多すぎる。フィリップは不安そうに相棒を見、天を仰いだ。
「警察め…嗅ぎ回りやがって…!ひと暴れしてやるかぁ!?」
有馬丸男は荒れていた。どこかのクラブで一人グラスを煽って毒づいている。いや…一人ではない。少し離れた席に座っていた女が丸男に声をかける。
「落ち着いて。警察にも仮面ライダーがいるのよ。」
声の主は園崎冴子!!隣には不愉快そうな表情を浮かべた若菜の姿もある。
組織の女どもだな?…丸男は立ち上がり、「なんだよ、ケダモノに興味でもあんのか?」と下卑た笑いを浮かべた。
「ないわよ、そんなもの!
ったく…ろくな男に会わないわ…この仕事…!」
吐き捨てるように若菜が言う。今日はあの意味不明のハイテンションが収まっているらしいが、その代り妙に苛立っている。
小娘にバカにされて色めき立つ丸男に、冴子が冷たく告げた。
「あなたに興味があるのは…あの人よ。」
店内に流れていたピアノの調べがバーン!という不協和音とともに乱暴に途切れた。演奏していたピアノマンは井坂深紅郎だったのだ。井坂はおもむろに立ち上がると、ねっとりと纏わりつく蛇のように、丸男の背後に回って囁いた。
「あなたの身体の真の力が見たい…。
代わりにやってあげましょうか?熊狩りを…。」
井坂はニタリと笑って舌舐めずりをした。
翔太郎、尾藤、亜樹子は、山間のつり橋を渡り、風吹山の別荘に来ていた。そこはおやっさんが”わけあり”の依頼人を匿っていた別荘だった。翔太郎は以前一度来た事があり、木彫りの熊はその時に見たのだ。
一人、事務所のガレージに残ったフィリップは、自分の中に新しい力が宿っている事を感じていた。その力は強く、時々放電するようにフィリップの腕から漏れ出した。ガレージの中を探索しながら這いまわっていたデンデンセンサーが、何かを察知して反応した。
リボルギャリーの出撃口が開き、姿を現したのはシュラウドだった。
シュラウドがなぜここに!!!!
「あなたより、ずっと以前からここを知っているもの。」
なんですとー!?シュラウドは園崎家と関わりがあるだけでなく、鳴海壮吉とも繋がりがあったってことでしょうか。おやっさんのスカルドライバーとスカルメモリもシュラウドが?一体どんな因縁が。
シュラウドはガレージの中を歩きながら、フィリップに預言した。
「来人。あなたはもうすぐ進化する。エクストリームメモリを使って…。
でも、そこに到達できる真のパートナーは…
左翔太郎では無い。」
フィリップは目を伏せて呟いた。
「翔太郎ではもう…ボクのパワーについてこれない…。」
今ならシュラウドの言っている意味が良くわかる。
フィリップは悲痛は表情を浮かべ俯いた。
一行は件の別荘に到着した。長い事使っていなかった別荘のは埃臭く、翔太郎は、窓を開けて澱んだ空気を追い出した。翔太郎の記憶通りなら、問題の木彫りの熊は屋根裏の奥にあるはずだ。亜樹子が身軽に階段を駆け上がっていった。物珍しそうに室内を眺めていた尾藤は、壁のコルクボードに貼られていた古ぼけた写真を見つけて手に取った。
サムとベルとマルの笑顔がそこにあった。
『愛すべき街の問題児サム 1999.12』
「旦那…あんたが言った通りだったよ…。
マルは足を洗っちゃいなかった…。今でもベルを泣かしてる…。」
尾藤はポツリと寂しそうに呟いた。「何見てるんだ?」と翔太郎が近づいてきて、尾藤の手からピッと写真を取った。冒頭の方でフィリップに検索を頼む竜の手から新聞を取るシーンもありましたけど、翔太郎の癖でしょうかね。人の持っているものを、有無を言わさずにピッと横から取るのは。相手が相手なら喧嘩に発展しそうだな…とハラハラしてしまいます(^^;)
「尾藤さん、今でもベルさんの事好きなんだろ?」
翔太郎がしたり顔でニヤリと笑った。尾藤は呆れたように翔太郎の顔を眺めて、
「心底薄っぺらいな、お前は。本当に旦那の弟子か?」
と吐き捨てる様に言った。カチンと来た翔太郎が、どういう意味だと眉間にしわを寄せる。
尾藤はため息をつくと、重い口を開いた。
10年前、丸男のしでかした”悪さ”が発覚した時、尾藤は怒ってマルに制裁を加えた。土下座して許しを乞うマルを引き摺り起して、なおも殴りつけようとするサムに、「もう止めて」と必死に懇願するベル。
「お願い!この人を見逃してあげて…!
私…この人…この人がいないと…生きていけない…!!!」
マルに縋って泣くベルを見て、尾藤は自分の気持ちを封印し、ベルの幸せの為にマルの代わりに罪を被って自首した…それが事件の真相だったのだ。
「まさかあんた…それで有馬の罪を被ったのか。惚れた女の為に…。」
「だから、そう言う事を言葉にすんじゃねぇよ。ボウズ。」
尾藤が渋面を作って翔太郎を窘めた。鳴海壮吉は何も言わなかった。尾藤が罪を被って出頭すると言った時も、何も言わなかった。本当の事も、尾藤の青臭い気持ちもすべて知っていたはずなのに。
「あの人は…分厚い男だった…。」
遠い目をして呟く尾藤の言葉に、翔太郎は脱力したように壁に寄り掛かった。追いつこうにも…まだまだ、おやっさんの背中は遠い。俯いて手にした帽子に視線を落とした。
しょんぼりと肩を落とす翔太郎に向き直り、尾藤は厳しい言葉を掛けた。
「ボウズ、薄っぺらい男の人生は痛てぇ。
…今にでかいモン失うぞ。」
翔太郎の脳裏にビギンズナイトの悲劇が甦る。
血に染まる白いスーツ。翔太郎の目の前で、おやっさんは笑って死んでいった。
「おやっさんよりデカイ失くし物なんか…あるかよ…。」
屋根裏を物色していた亜樹子が、戦利品を手に意気揚々と駆け下りてきた。
埃を被った蜘蛛の巣だらけの木彫りの熊。これが鳴海壮吉の置き土産か。一体この熊がなんだというのだろうか。頭を捻って考え込む3人に近づく不吉な影。
突然吹きつけられた凍気が尾藤の身体を凍らせ、手に持っていた熊はデッキの隙間から地面に転がり落ちた。ゆっくりと近づき、熊を拾い上げたのはウェザーだった。
「これですか?」
「井坂深紅郎!!」
すぐさまダブルドライバーを取り出し、相棒に声を掛ける翔太郎。しかしいくら呼びかけても、なぜかフィリップからのいらえは無く、そうこうするうちにウェザーは大事そうに熊を抱えて踵を返した。このままではまんまと熊を持ち逃げされてしまう…!翔太郎は尾藤の事を亜樹子に託し、無謀にも生身のままウェザーと戦い始めた。
フィリップには考えがあった。成功するかどうかはわからないが、今はこれしかない。
スタッグフォンを操作し、リボルギャリーに乗り込んだ。
無駄な事…と止めるシュラウドの言葉を冷たく拒絶し、フィリップを乗せたリボルギャリーが出撃した。
Wに変身しても苦戦するのに、生身のままでは敵うはずがない。小動物をいたぶる様にウェザーは翔太郎を追い詰め、トドメの稲妻を放った。そこへ!リボルギャリーが滑り込み、翔太郎の傍らにフィリップが降り立った。
さっき呼びかけた時、何の反応も返さなかったフィリップに腹を立て、翔太郎はつかつかと歩み寄ると、肩を押して問いただした。一体何をやってたんだ…!
「選択肢はファングジョーカーしかない。ボクの身体をベースにするしか…。」
「は?!」
翔太郎はフィリップほど事態を重く受け止めていないようだ。急に慎重になった相棒の頑とした横顔を呆れたように眺め、諦めたように承諾した。
フィリップの身体がベースなら、パワーの劣る左半身を引っ張っていけるかもしれない…その僅かな可能性に賭けた。しかし。
ファングジョーカーの身体はギクシャクと噛みあわず、攻撃のタイミングがずれてウェザーにかすりもしない。どうしても翔太郎サイドの動きが遅れ、フィリップの力に振り回されて思う様に動けないのだ。ここに来てようやく翔太郎は、フィリップの桁違いに跳ね上がった制御できないパワーに愕然とした。
最初のサイクロンジョーカーの噛みあわない動きも凄い!と思ったんですけど、このファングジョーカーの動き、あり得ないですね。左半身が完全にお荷物になってる。最初のパンチは踏切のタイミングが合わず、軸がずれたままの回し蹴りは、悉く軸になる左足が途中でガクンと折れて膝から倒れてますし。い…痛くないんだろうかー。あんな石ころだらけの河原で。膝をついての足払いも、右足の遠心力に振り回されて仰向けに転がっちゃって、なかなか起き上がれなかったり。
ウェザーの炎の掌底で飛ばされたファングジョーカーも凄かった。後ろ向きに飛んで背中から落ちてるんですよね。こういう時絶対に身体をひねったり、いったん足を着いてから転がったりしてないんですよね、高岩さんて。思い切りよくドーンと。だからやられ演技がリアルなんでしょうね。
咄嗟に身体捻って手を付いたりしたくならないんでしょうか。ホントにいつも思います。怖くないのかな、痛くないのかなって。すごいなぁ。
「フィリップ!マキシマムで反撃だ!」
「左右のバランスが悪すぎる!!きっと衝撃に耐えられない…!」
「やられちまったら元も子もねぇだろ!!」
フィリップは一か八かのマキシマムドライブに踏み切った。だが、ファングジョーカーの身体はファングストライザーの途中でバランスを失い、独楽のように回転し始め…あろうことか空中分解してしまった!
フィリップは地面に投げ出されて転がった。
「そんな…!
Wでいられなくなった…!!
翔太郎!!翔太郎!!」
傍らで意識を失っていた翔太郎は、フィリップの必死の呼び掛けに飛び起きた。
「なぜだ…!今度は俺が…!」
翔太郎が自分のダブルドライバーに手を当てたとたん、激しい電流が走って拒絶された。一体何が起こっているのか、理解でき無い翔太郎は愕然と相棒を見つめた。
フィリップは…力なく首を振った。
翔太郎ではもう……ボクのパワーについてこれない…。
鳴海探偵事務所。
シュラウドが放ったダーツの矢が、翔太郎愛用の椅子に深々と突き刺さる。
「終わりよ。左翔太郎。
お前には…Wは無理。
そんな…
Wに…なれない…!!
気になる!気になり過ぎる!
W始まって以来の非常事態じゃないですか。
予告見ると、「照井竜、ボクと組む気はあるかい?」とか行っちゃってるし。
フィリップが心変わり!?そんなわけないと思いますけど。
ビルから落下する人影は翔太郎?
そしてあの野太い声の「えっくすとりぃぃぃぃぃ~む!」は何?
遂に登場の様ですが。新フォーム。
早く…早く続きを…!!
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